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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1138号 判決

上告人

春田道男

被上告人

春田ま

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

上告人の本訴請求は、上告人が昭和二一年五月二二日被上告人から戸主春田定の家督相続人として選定されたことを理由として、戸籍簿上家督相続人である訴外春田正策を排除し上告人の家督相続人たる地位を回復することを目的とするものであることは記録上明らかである。したがつて、このような請求は、民法九六六条(昭和二二年法律第二二二号による改正前のもの)の定めるところに従い、右正策を相手方とする家督相続回復の訴によつて、なすべきものであり、本訴請求は、戸主春田定の家督相続人たる地位をめぐる関係当事者間の紛争を解決する手段として有効適切な方法と認めることはできない。それゆえ、本訴請求が、即時確定の利益を欠き、不適法な訴として却下を免れないとした原審の判断は、正当として是認することができる。また、証拠の採否その他原審の所論の措置に何らの違法も認めることができない。原判決に所論の違法はなく、したがつて、その違法を前提とする違憲の主張も、前提を欠き理由がない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないか、独自の見解に基づきこれを攻撃するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄 関根小郷)

第二審判決理由(抄)

まず本訴の適否について判断する。控訴人の本訴請求は、被控訴人が昭和二一年三月二二日控訴人を戸主春田定の家督相続人として選定した行為の有効であることの確認を求めるというにあることは、主張自体明らかである(控訴人は、原審において被控訴人が昭和二一年三月一五日より同年五月二二日までの間に控訴人を家督相続人として選定したことの確認を求めていたのを、当審において右のように訂正したが、両者は一見過去の権利又は法律関係の確認を求める趣旨にとれるが、要するに控訴人が被控訴人より亡春田定の家督相続人として選定されたことにより家督相続人の地位を有することの現在における権利関係の確認を求める趣旨に善解すべきものとする)。

そして、本件は日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和二二年法律第七四号、同年五月三日施行)の施行前に開始した相続に関するものであるから、民法附則二五条一項の規定に基づき旧民法が適用されるものであることはいうまでもない。

ところで、旧民法九六六条の規定によれば、自ら家督相続人であることを主張する者は、家督相続回復請求権を行使し、直接不法な家督相続をした者に対し、自己に真正の家督相続権があることを主張して相続権を回復することのみが許されているのであるから、控訴人としては相続回復の訴によつてその者のなした不法な家督相続を排除し、しかる後に自己が正当な家督相続人として選定されていることを認められて始めて法律上の地位が確定されるものと解すべきであるから、家督相続回復の訴以外の他の訴によりこれと同一の目的を達することは許されないものというべきである。

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